お客様の事例②

法律の話はほとんどしない

 顧問先に訪問したとき、労務関係の手続きや法律の話は、ほぼしません。

社長の近況をお聞きします。

社労士業務に関係のない話であっても、そんな会話を社長とすることが、

とても重要だと考えています。

人は、自分が望んでいない情報を届けられても、キャッチできません。

私が「労務の法律がこう変わって、こんな手続きが必要で…」と

一方的に話したとしても、社長の耳には届かないのです。

法律的なことをお伝えするよりもまず、社長と良好な関係性を築くことが、私にとっては重要。

だから、職場の話、家族の話、趣味の話など、いろいろなことを社長に聞かせていただきます。

つまり、傾聴しています。

これによって、社長に喜んでいただいた事例をお話します。

時代に取り残されていた就業規則

 知り合いの税理士さんから、ある会社社長をご紹介いただいたときのこと。

その会社には就業規則がありましたが、7年前に作ったものを使い続けており、

時代に合わなくなっていました。

 しかし、社長にお会いした当初、私は「就業規則を見直しましょう」とは言いませんでした。

まだ信頼関係ができていないのに、そうしたご提案をすると、売り込みになると思ったからです。

私はまず、社長のことをいろいろと知りたいと思いました。

その社長は、お父さんが早くに亡くなったため、若くして会社を継承されていました。

お父さんの時代は、身内が役員として入っていたが、会社の今後を考えて、

身内には退いてもらったとのこと。

そんな身の上話をたくさんお聞きしました。

ある日、社長のほうから「就業規則を見直したい。全部お任せします」という依頼がありました。

大幅な見直しとなるため、かなりの費用がかかることをお伝えすると、

「それでいいです。長くお付き合いしたいので」と言って、快くOKを出してくださいました。

きっと、労務とは関係ないさまざまなお話をする中で、私を信頼してくださったのだと思います。

全部任せる、と言っていただけたことが、とてもうれしかったことを覚えています。

福祉施設の経営者が抱えていた「ある悩み」

 もう一例は、福祉施設の事例です。

ある介護施設の経営者から、こんな相談を受けたことがあります。

「社員が退職したため、代わりに自分が介護職員として現場に出なければならなくなった。

おそらく『処遇改善加算』がつくと思うので、これを従業員に分配し、給与を少しでも上げたい」

 処遇改善加算とは、職員の報酬を上げるための制度です。

この制度は、現場で働く介護職員が対象となりますが、その経営者は、

自分も介護職員となって働いた分、処遇改善加算が受けられると思っておられました。

 ところが、お付き合いのあった行政書士から、「それは無理です」ときっぱり言われてしまったのです。

このケースの場合、行政書士さんが言う通り、処遇改善加算を分配するのは無理でした。

というのも、処遇改善加算は職員につくもので、経営者にはつかないからです。

いくら現場に出て働いても、経営者である以上、この加算を受け取ることはできません。

だから、それを分配することもできないのです。

でも、その経営者は、一円でも職員の給与を上げたい、という思いを持っていました。

私は「難しいかもしれないが、もしかしたら市町村によって対応が違うかもしれない。調べる時間をください」とお伝えしました。

調べた結果、やはり無理だということが分かりました。

でも、その経営者は、調べてくれただけでも有り難い、と喜んでくださいました。

社労士の業務には、法律が絡みます。

どんなに経営者が望んでも、法律上難しい場合は、どうしようもありません。

でも、何か良い方法はないか、いっしょに考えることはできます。

明解な答えが出ないこともあるし、これだ!という解決策が見つからないこともあります。

それでも私は、経営者に寄り添い、知恵を出したいと思っています。

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